一匹の蚊【モノローグ #17】

一匹の蚊【モノローグ #17】 MONOLOGUE

今日は、10月29日。

もう朝晩は、けっこう寒い。
羽織るものに自然と手が伸びる季節になってきた。

「なのに、部屋に蚊が一匹いる」

お勝手にくると、毎日かならず「プーン」と寄ってくる。
たぶん同じ個体だ。

この間は、コイツに派手に刺された。
1cm以上に大きくハレて、かくのを我慢するのが大変だった。

最初にコイツの存在を知ったときは、駆除しようと考えた。

ぼくの蚊に対する認識は「害虫」だ。

アフリカでは病気を媒介する危険な生物だし、ぼくなどは、蚊にさされると、ときに全身が熱くなりアトピーがひどくなる。

しかし、もしかすると。

これだけ朝晩寒い。
おそらくアイツは、体を思うようには動かせないのではないだろうか。

翔ぶことさえ、かなり大変なことなのかもしれない。

「今回は、コロさないでおいてやろうかな」

ハンデを負っていると思うと、なんだかアイツが、とても不憫に思えてた。

しかもアイツが強い個体であるのを、ぼくは知っている。
この間、蚊取りをけっこう焚いたのに、こうして生きているのだ。

「なんだか、引退の機を逃した、老ボクサーみたいじゃないか」

こうなったら、生きられるだけ生きてほしい、と思うようになった。

積極的に刺されにはいかないけど、スキをついて刺された場合には負けを認めよう。

こうやって文章を書いている間にも、また寄ってきた。

キミ。
変わり者に生まれると、ホント大変だよな。

でも美しいよ、キミ。

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